核兵器禁止条約について学ぼう(その三)

 日本が核兵器禁止条約に参加しない理由

ということで、日本が核の使用保有を禁じる理想的世界を目指す、核兵器禁止条約に参加しない理由について見ていこうと思います。

 核の傘

この核の傘という単語は聞いたことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは、核保有国がその核の抑止力を非核保有国にも及ぼすという状態のことを言います。わかりやすく言えば、そちらが攻撃してきたら、核による反撃があるぞという抑止力を、アメリカを攻撃するだけでなく、日本を攻撃することでもやるぞという姿勢を見せることで、日本に対する攻撃を抑止する力も及ぼしているということです。現在日本は、アメリカの核の傘の下で安全保障政策を行っており、日本が平和で過ごせていることも、核の傘によるアメリカの抑止力あってこそであることは間違いありませんし、多くの人がその認識を共有されていることかと思います。そのことから、核兵器禁止条約に参加してしまえば、その安全保障政策と矛盾した主張になりかねないために参加を見送ったというのが大きな理由の一つでしょう。ドイツや、オーストラリアやNATO諸国が核禁止条約の参加を見送ったのも、日本と同じく核の傘の下での安全保障体制を築き上げていることがあります。

 現実的ではない

次には、核兵器禁止条約には実効性が皆無だというポイントです。今回の参加国には、非核兵器国も多くの国が参加を見送ったことでその影響力に疑問を投げかける声もあります。なにより、核兵器国の参加がなければ核兵器禁止条約は実効性を持たないのが現実です。そして、今現在、包括的核実験禁止条約(CTBT)や兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)といった、核禁止条約よりも前の段階に存在する条約ですら核兵器国が参加していない状況で、核禁止条約に今の段階で参加することの意義というものも十分に考えるべきでしょう。

 溝を深めかねない

そして、現在核兵器国と非核兵器国だけの分断ではなく、非核兵器国の中にもNPT派と今回の核禁止条約派という分断が生まれました。つまりこれらの3つのグループの対立という構造になっています。しかしながら、現実的には全てのグループが一斉に核兵器禁止に動かなければ、悲しいことですが何の意味もありません。

そういう意味でも、今日本が核禁止条約に参加するということは、核兵器国に対する対立をあおることになりかねず、唯一の戦争被爆国として核兵器国と非核兵器国の橋渡し役になるべき日本が、対立をうむ行動を行うメリットは考えにくいでしょう。ましてや、核兵器禁止条約が現実的なものではない状況ですから、現実としては一歩も進めずに、核兵器国と非核兵器国の間の対立を生んだ結果、むしろ後退してしまう、逆効果となってしまう可能性すらあるわけです。そうではなく、現実的に上記のCTBTやFMCTを実効性あるものにしていくべく、核兵器国に働きかけて、核兵器を極限まで減らす努力がまずもって必要であります。今のこの状況で上述の通り現実的ではない核兵器禁止条約に参加するのはいらぬ対立をうむというのが日本の考えです。

 禁止は厳しいが着実に一歩ずつ

ということで、上記の理由から日本は核兵器禁止条約への参加を見送りました。

安全保障面での核の傘との整合性、その実効性の疑問、かえって溝を深める結果になるという理由からです。上述のようにCTBTなどを通じてまずは核軍縮に向けて着実に動く努力を進めていくことが、将来の核のない世界への近道となると考えているわけです。なにも日本政府が核兵器のない世界を目指していないという理由で参加しなかったというわけではないことは理解すべきです。